北九州発 これからのまちづくりを考える
去る11月19日、合同会社ポルトと大英産業株式会社が共同主催し、《北九州発!これからのまちづくりを考える》というテーマでトークセッションを行いました。
公共不動産の利活用や官民連携の可能性などについてざっくばらんに意見交換していこう、という趣旨で開催したイベントです。
会場は北九州市の中心駅でもある小倉駅目の前、商業施設『セントシティ』内にコワーキングスペースを構える【ATOMica】のイベントスペース。
オフラインとオンラインの双方から企業や関係者が多数参加してくださり、会場には時折笑い声も起こって終始和やかな雰囲気で進んでいきました。
今回のトークセッションは北九州市のこれからのまちづくりがテーマであり、現在、まちの将来ビジョンを策定している北九州市建築都市局都市再生担当課長の御舩さん、都市再生企画課長の正野さんにご登壇いただきました。
御舩さんは、30年先を見据えた北九州市の長期構想『2050まちづくりビジョン』の策定に携わっています。
人口減少、少子高齢化などにより地域経済が厳しい局面を迎えている今、これからのまちづくりは成長の時代とは違い縮小の時代になる、と御舩さん。「財源も豊かにあるわけではないのだからと言って、何もしなくてもいいのか?」「各地区が持っている特徴やポテンシャルを活かし、限られた財源の中で有効的に効果的に進めていくには長期的なビジョンが必要なのではないか」。そう考えたことがこの『2050まちづくりビジョン』策定の原動力になったと言います。
「将来こういうまちになったらいいよね」というイメージを、公共だけではなく民間も共通認識として持ってもらえるツールとして、『まちづくり構想』を位置づけています。現在、たたき台として有識者やまちづくり団体などと意見交換をしており、パブリックコメントも実施予定とのことですので、今後も『2050まちづくりビジョン』の進化に注目したいと思います。
正野さんは去年まで東京事務所におり、移住政策や北九州の魅力を効果的に広げるため、東京でファンをつくるなどの活動をしていた方です。
現在は御舩さんと同じく北九州市でまちづくりに携わり、「まちは時代とともに変化していくため、時代にそぐわなくなってきたものをどう解決していくのか」「どうしたらこのまちが良くなるのか」ということを日々勉強されています。
北九州市が行なった官民連携のまちづくりの一つが、小倉北区のホテル跡地を利用した【船場広場】。
使われず活かしきれてなかった土地を何とかしようと、市議会や商工会議所と手を携えて土地の所有者に働きかけた北九州市。
「ぜひこの場所を開かれた空間に!」という熱い思いが伝わり、令和元年夏に無事オープンしました。
市民の皆様に賑わいの場、憩いの場、若者のチャレンジの場として使ってほしいという願いの元、さまざまなイベントが行われています。今回のトークセッションに当たって正野さんは、「ヒントを持ち帰って明日からのまちづくりに活かしていきたい」という意気込みも語ってくれました。
今回のトークセッション、進行役は合同会社ポルトの菊池代表が行いましたが、北九州市が策定する『2050まちづくりビジョン』については、菊池さんも「街を本気で変えようとしていることを感じた」と感想を述べていました。
そして今回は、日本で一番『公共不動産の利活用』について詳しいのではないか、というほど精通している公共R不動産の飯石藍さんにも特別ゲストとしてご登壇いただきました。
飯石さんは公共R不動産をはじめ、東京でいくつかのわらじを履いて活動されている方です。
まず一つ目は公共R不動産。
全国には使われていない公共空間、例えば公園や道路、廃校などの情報がまだまだ眠っているので、それを表に出して民間の使いたい人に繋いでいくという事業です。
二つ目は株式会社nest。
東京・池袋の空間づくりや場づくりをしている会社です。
毎月公園や道路でマーケットをやったり映画祭をやったりして、公共空間でできることを少しずつ広げていき、池袋のイメージを上げていく。
そうすることによって出店する人や参加する人が増え、いつの間にか住んでいる人にとってそれが日常の風景になる。
そんな、生活者と生産者が繋がって循環していけるような都市としての池袋を追求している事業です。
三つ目はリジョンワークス合同会社。
福岡に本社があり、地域づくり・組織づくり・地域の経済循環を軸とした都市デザインの会社です。
近年では、これまでの新築・駅近が評価されていた不動産ではなく、古くても自分で手を入れることで価値が上がっていくような、DIYすることで自分のほしい暮らしをつくり出すような、そんな “古いものがリノベーションされて、それを自分たちなりに使っていく”というカルチャーがどんどん育っていると感じている飯石さん。
そんな時代の流れの中で、次は公共空間の活用が要になってくる、という思いに至った飯石さんが手がける事業は、すべて『公共空間の活用、行政と民間の間に入って場所の使い方や新しい事業づくりをうまくできるかのサポートをする』という点が共通しています。
宮地は勤続43年、不動産一筋で不動会業界の変遷をすべて見てきました。
その中で「住まいに関わる課題は何だろう」と考えたとき、三つの議題に思い至りました。
一つ目はお客さまの価値観、家族形態の変化。
こちらに関しては時代のニーズに合ったコンパクトマンションを展開し、ご好評いただいております。二つ目は人口減少による空き地・空き家の増加。
こちらは多世代共生のまちづくりが大切という観点から、同じマンションでも同じ画一された間取りではなく、様々な間取りをご用意していろんな世代のお客さんに分譲できるような、持続可能な大型マンションを展開し、いろんな世代のお客さまがコミュニケーションを取ることで、新しいまちのようになることを目指しています。
三つ目は自然環境への負担。
こちらはSDGsを通じて、元気で心豊かな未来を創れるよう様々な取り組みを行っています。
このように、大英産業の経営理念は、『元気な街、心豊かな暮らし』です。
私たちが働くまち、住むまちを元気にして、活性化して、私たちに関わる全ての人に幸せになってもらう。
そして心豊かな暮らしを送ってもらう。
そんな世界を実現しようと願う強い気持ちを表しています。
菊池さんは7人男兄弟の6男ということで、生まれた時からパシリのようにいろんなことをさせられていたからか、現在もありとあらゆる仕事を受けて幅広く活動しています。
大英産業に携わっているほか地元企業の岡野バルブでも働いており、その他、北九州市のオンライン移住相談員や震災をきっかけに3人で起ち上げた阿蘇の会社で民間の空き家バンクのような事業もしています。
そんな菊池さんが代表を務める合同会社ポルトは『クリエイティブ』『店舗と物販』の二本柱で運営しています。
ポルトを通じて門司港自体の知名度も上がってきており、実際に会社を起ち上げてから移住してきた若い世代が30人くらいいるのだそう。
門司港という港町らしく、「混ざることを意識している」という菊池さんは、ポルトという会社を利用していろんなものをかき混ぜて想像していくことで、人の想像力が人の心を動かして、暮らしや街を変えていけるんじゃないかという実験をしているのだといいます。
今後実現していきたいことは、『地域課題と地元企業の資源をクリエイティブの掛け算』。
例えば、新しいコンテンツを地域課題を使って何かつくれないかというアプローチや、地元企業とクリエイティブを掛け合わせることで社会を変革できる事業を生み出せないかと考えています。
前半の登壇者自己紹介だけでも、みなさん個性的でかなり濃い内容となったので、一旦ブレイクタイム。
後半ではいよいよ、そんな個性的な登壇者同士でディスカッションを行いました。
せっかくの白熱したトークセッションですので、熱をそのままに会話形式でお伝えしたいと思います。
菊池:『2050まちづくりビジョン』はそもそもどのような経緯でつくられたんですか?
御舩:今からのまちづくりは、これまでの行政だけで考えていたのでは進められません。
地域の方々、まちづくりをしている事業者の方々と連携してまちづくりに取り組むべきだと思います。
「やみくもになるのではなく、目指すべきゴールの共通認識が必要では」と思ったのがきっかけですね。
菊池:内容はかなり切り込んでますよね。
御舩:今までの概念をいったん捨てなければいけないな、と。
今までは直近の課題解決の結果のまちづくりでしたが、これからのまちづくりに関しては遠い将来の大きな目標を掲げて、そこに向かってやれることから一歩ずつ積み上げていくことが必要だと考えました。
菊池:なるほど。
御舩:『2050まちづくりビジョン』にも、「まちづくりとは役者の舞台をつくること」という言葉があります。
ターゲットプレイヤーを決めてまちづくりの主役とする。役者も舞台がなければいい演技ができないですからね。
菊池:他に力を入れていることはありますか?
正野:高齢化も進んでいますが、若者が定着する上では働く場が必要ですよね。
そのためにはいろんな職業の選択肢が必要になり、特にIT企業の誘致に力を入れているのですが、受け入れるオフィスビルが圧倒的に少なく、しかも古いんです。
築年数の経過したオフィスビルが多い。
せっかく誘致しても入れる場所がなく、時代のニーズに合っていないのが現状です。
そこで、2050年には“まちごとワークプレイス”を目指そうと思っています。
菊池:他にも北九州市が抱えている課題はありますか?
正野:これまで歩道整備に努めてきましたが、小倉をはじめ、まだまだ狭い歩道や通りがたくさんあります。
これについては人口減とともに車も減ってくると思いますので、その時代の交通量を見定めながら歩行者の空間を広げていきたいと考えています。
ゆっくり散策できて、楽しくなるようなまちを目指したいですね。
菊池:飯石さん、全国的にも道路を活用する動きってあるんでしょうか?
飯石:国としても、『歩行者利便増進道路』、通称『ほこみち』を導入する動きが進んできています。
賑わいのある道路空間をつくっていこう、という動きですね。
コロナ禍で沿道店舗の売り上げが減ったときに、特例で客先部分は外に出てもいいという許可(https://www.mlit.go.jp/road/senyo/03.html)も出ましたが、それによって外に賑わいがあるっていいな、と感覚値として共有できましたよね。
その流れで、継続して屋内だけでなく外に賑わいが広がっている状況がつくれるといいなと感じています。
菊池:通りが自由になって、欧米っぽくなっていくのかもしれませんね。
飯石:昔はパブリックな空間が曖昧だったから、勝手に路上で野菜を売っていたりもしましたよね(笑)。
そんなおおらかな空間がまちに活気を取り戻していくような気がします。先ほども話に出た交通量の減少って、脱炭素の動きによる環境負荷の削減にも繋がるし、歩いて楽しむことでの周辺の商業の売り上げを上げる経済活性化にも繋がります。
一定期間は車が入らないようにして歩行者のみのトランジットモールにするなどして、歩くことでの動きをつくり出す動きも活発になりそうです。
菊池:宮地さん、民間の意識も変わってきている印象がありますが、その辺はいかがですか?
宮地:お客様自身に変化が起きているような気がします。
何より暮らしを大切にするようになり、広い家よりは家賃の安い家が好まれたり。
私たちも、ライフスタイルに合った良質な住まいを提供し、持続的に発展するまちをつくらなければ、という考えに変わってきました。
菊池:官民連携において何か課題はありますか?
飯石:まず、何からすればいいのかわからない、行政・民間がお互いのことをよくわからないため、連携といっても何を大切にすべきかわからない、という問題があります。
それに、公共空間は面積が大きいので1企業で活用しきるという体力がない場合も多いという問題もあります。
そこで、「まずは小さく始めよう」ということを呼びかけています。
実験的に、これからの未来の風景をつくるような単発的なイベントや暫定的に期間限定で出店してもらうんです。
トライアルをして、次のステップにつなげていくんですね。
いわば、社会実験です。
菊池:なるほど、社会実験という名の規制緩和が大事なんですね。
北九州市の取り組みはいかがでしょうか?
正野:船場広場のキーワードは、まさに『チャレンジ』なんです。
広場の整備が目的ではなく、そこで何かパフォーマンスしてもらって、その空間で何かを生みだしてもらう。
それがまちのエネルギーになる、という考えですね。
官民連携はあくまでも一つの手段であって、エリアの価値を高めるのが究極の目的です。
エリアの価値が高まれば、北九州市への愛着心に繋がって住み続けようというプラスの循環が働く。
みなさんが輝けるようなパフォーマンスに使ってほしいし、そういう場所をできるだけ増やしていきたいですね。
チャレンジするためのひとつのきっかけが、社会実験なんだと思います。
菊池:不動産業界から見て、この『2050まちづくりビジョン』についてはどのように感じましたか?
宮地:もったいない、どうにかできないかなという土地はたくさんあります。
でも、どうアプローチしてどういう風にやればいいのかがわからないんですよね。
ですので、このようなビジョンが持つ力で、民間も勇気が出ます。
発信することでお互いに考えがわかって、まちづくりが少しずつ進んでいくのだと思います。
御舩:来月からパブリックコメントも集めますし、地域の方々がまずまちづくりに興味を持ってほしいと思います。
住んでいる人が楽しいと思えるようなまちにしていくことが大事ですね。
きっかけがまちづくりビジョンであってほしいなと思います。
菊池:一般の人も都市計画に関わっていない企業も、どんどん意見を発信することで新しいことが生めるかもしれませんよね。
今回、市の人がこんなにオープンに話してくれたことは、今後のまちづくりにとっても大きいと思います。
官民連携はもっと議論を活発にしてもいいんだな、ということが感じられたトークセッションでした。
ありがとうございました!
—
官民の枠を飛び越えて、それぞれ思いの丈をぶつけ合い、意見を交わすことができた今回のトークセッション。
ご視聴くださった方にとっても、まちづくりについて話すハードルが低くなり、自分たちのまちがより身近に感じるようになったのではないでしょうか?
参加してくださったみなさま、ご協力いただいた関係各所のみなさま、ありがとうございました。